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和食伝導 金沢から世界へ 髙木慎一朗

2021年4月30日
Column #019

母親から習った鯉料理、プロをうならせる

川魚専門店でしか出されなくなった鯉料理の品々

少し前までは桜に見惚(ほ)れていましたが、すぐに菖蒲(しょうぶ)の時季がやってきました。日本料理において5月は、夏の始まりです。茶席では炭をくべて茶釜で湯を沸かしていた炉を閉じて、その上に風炉を置き、夏のしつらいになります。

5月5日の端午の節句は菖蒲(尚武)の節句ともいわれ、江戸時代は武士の間で盛んに祝われたそうです。この時期に、蔵に収めていた武具を出して虫干しする習慣から、鎧兜(よろいかぶと)を飾るようになったともいわれています。端午の節句で誰もが思い浮かべるのは、鯉(こい)のぼりではないでしょうか。「急滝を登った鯉は龍になる」という中国の故事にちなみ、男児の立身出世の願いを込めて飾ってきたのでしょう。

鯉は古くから観賞用としても愛されてきました。金沢の兼六園の霞ケ池にも、彩り鮮やかな鯉がたくさんいます。もちろん食用としても長い歴史があります。洗いや鯉こくなどが代表的な料理ですが、私は寒鮒(かんぶな)のように鱗(うろこ)や内臓をつけたまま、甘辛く炊いた煮付けにも惹(ひ)かれます。今、鯉は川魚料理の専門店でないとなかなか使われない食材になっていますが、一昨年の夏に私は予期せぬ鯉料理に驚かされたのです。

金沢市主催の「全日本高校生WASHOKU(和食)グランプリ」という高校生による日本料理のコンテストがあり、私は実行委員長と審査委員長を拝命しました。この大会は、日本在住の高校生であれば誰でも参加できるもので、1次審査には100チームを超えるエントリーがありました。金沢での決勝戦を勝ち抜き優勝した長野県野沢南高校の女子生徒2人が作ったのは、地元の佐久鯉を使った料理で、聞けば彼女たちのお母さんから習った料理だとか。最初は鯉料理と聞いて、「難しいだろうな」と思いましたが、彼女たちは現役の一流料理人をそろえた審査委員たちを母親から伝授された料理で唸(うな)らせたのです。それは、プロの料理人の世界だけではない料理の継承を垣間見た瞬間でした。

髙木 慎一朗氏
たかぎ・しんいちろう

金沢の「日本料理 銭屋」の2代目主人。「ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016特別版」で2つ星を獲得。

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