初夏の日本料理に欠かせない鮎の塩焼き
金沢市内を流れる犀(さい)川に架かる犀川大橋を渡っていると、ついつい足元の川面に目がひかれます。歩みを止めて眺める、たっぷりとした水がゆったりと流れる景色は、いつも気持ちを穏やかにしてくれます。
この場所に初めて橋が架けられたのは、前田利家公の頃といわれています。その橋の上で松尾芭蕉も一句詠んだとの説もあるとか。最初は木造であったこの橋は何度も修繕を施され、現在の姿は、大正時代に英国から取り寄せた鋼材も使って造られたものとなっています。また、昭和の中頃までは、橋付近の川べりに屋形船が常時接岸していたそうで、そこでは牡蠣(かき)鍋を提供していたという話を幼い頃から聞いております。
橋の上からは時折、ウグイや鯉(こい)の姿を見ることができ、秋には遡上(そじょう)する鮭(さけ)を見かけることもあります。さて今の時期はというと、私はやはり鮎(あゆ)を探してしまいます。ただ水深のある犀川大橋付近よりも、浅瀬の方がその姿に遭遇しやすいので、時間があるときはわざわざ浅瀬の川べりを歩きます。天気の良い日は、この時期特有の川水の香りを感じます。鮎の香りともいえるこの香りが、鮎釣りの解禁を待ち焦がれている太公望達を興奮させるのです。
鮎釣りといえば、縄張りを持つ習性を利用した友釣りが有名ですが、金沢では毛針を使った釣りも盛んです。加賀藩士の鍛錬として鮎釣りが奨励されていたことから、毛針作りも武士の内職の一つとして定着したようです。
初夏の日本料理に欠かせない食材の一つである鮎を使うのは、僅か2カ月ほどですが、焼き場の腕をはかるには絶好の機会です。鮎がまるで泳いでいるかのように焼き上げるための踊り串を打ち、塩を振り、頭はサクッと、皮はパリッと身はふわっと、そしてヒレは化粧塩をせずに一枚も欠かさず焼き上げる技術は今もしっかりと伝承されています。
金沢の「日本料理 銭屋」の2代目主人。「ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016特別版」で2つ星を獲得。