新鮮なヒラメに包丁の刃が入る。「常磐もののヒラメは弾力があって上品な味わいが特長」。東京・新橋の創作和食店「PIASIS(ピアシス)新橋店」の料理長、濱田憲一さん(47)は話す。
福島にこだわる。県や市町村のポスター、ご当地キャラのカプセル玩具。運営する「無洲(むしゅう)」(東京都港区)の浅野正義社長(56)は「福島より福島のものがありますよ」と笑う。提供する日本酒も、すべて福島の酒蔵のものだ。
原発事故から2カ月後の平成23年5月。浅野社長らは福島県広野町に向かった。地元の酒屋店主が漏らした。「賠償金ではなく、生業(なりわい)で暮らしたい」。食で復興を支えるきっかけになった。
「がんばっぺ! 福島コース」。前菜からデザートまで福島の食材で構成する。魚介類の試験操業が解禁され、ラインアップも増えた。ヒラメの刺し身も供される。濱田さんは都内の五つ星ホテルでスーシェフ(副料理長)を務めていた。当時は店を離れられなかったが、今は福島に赴き、自らの目利きで仕入れる。漁師から「こんなのも取れたよ」と聞く。
「海、山、川。毎回が発見の連続。まさに食材の宝庫です」
風評被害。店ではどこ吹く風。コースの予約は絶えない。てらいなく言う。
「福島のものはおいしい。だから使うんです」
(産経新聞東京朝刊掲載 2018年7月11日)