「今年のサンマは胴が丸くて寸詰まり。見ただけで脂がのっていてうまいと分かる」
古くから漁師町として栄えてきた福島県いわき市小名浜に、サンマにほれ込んだ男がいる。水産加工会社、上野台豊商店を経営する上野臺優さんだ。小名浜はサンマやカツオの沖合漁業が盛んだが、震災後、水揚げが大きく減少。地元でもサンマを食べる機会が少なくなっていることを憂い、2年前に地元のサンマ料理を商品化する「小名浜さんま郷土料理再生プロジェクト」を立ち上げた。
注目したのは、小名浜が発祥とされる「さんまのポーポー焼き」。サンマのすり身をハンバーグのように丸めて焼いた料理で、漁師が船上で作る際に脂が炭火に落ちて「ポーポー」と炎があがったことから名付けられたという。
商品開発でこだわったのが鮮度。水揚げから24時間以内に加工することを徹底。機械で内臓と骨を除去した後、手作業で丁寧に皮と血合いも取り除く。「手間を惜しむと、臭みがなく舌触りの良く、子供が食べてもおいしいすり身は作れない」。食べてみると、凝縮されたサンマのうま味が口いっぱいに広がる。
黒潮と親潮がぶつかる同県沖で取れた魚介類は「常磐(じょうばん)もの」と呼ばれ、震災前は高く評価されてきた。しかし、ヒラメやカレイなどの沿岸漁業は現在も週数日の小規模な試験操業しかできないのが現状。沖合漁業は早い段階で通常操業を再開したが、県全体の水揚げは平成29年で約6600トンと震災前の22年に比べ半分の水準にとどまっている。
サンマなど回遊魚の沖合漁業の漁場は他県の漁船も操業する同じ海域。しかも同県は放射性物質のスクリーニング検査を実施し安全性を確認して出荷している。それでも、県内に水揚げされ、「福島県産」「福島県沖」などと表記されると、風評で消費者に敬遠される傾向が根強いという。
「消費者に選んでもらうには本当においしいものを作って、必死で伝えていくしかない」と、上野臺優さんは力を込める。
サンマの初物を口にするのは群れが南下し脂がのって価格も手頃になり、自ら仕入れたときというのが上野臺優さんの“流儀”。「やっぱりここ数年で最高」。9月下旬、宮城県の気仙沼に水揚げされたサンマをようやく堪能した。同26日には小名浜にも待望の今シーズン初めての水揚げがあった。
(2018年9月30日)