魚の国 宝の国 SAKANA & JAPAN PROJECT

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2018年11月21日
コラム #006

「常磐もの」復活へ漁師奮闘「自信の味、自分で伝えたい」

黒潮と親潮がぶつかる日本有数の漁場である福島県沖の海域で取れる魚介類は「常磐(じょうばん)もの」と呼ばれ、東京・築地市場でも高く評価されてきた。しかし、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から7年がたった今も福島県の漁業は限定的な試験操業にとどまっている。風評の影響などで販路と販売の回復が進んでいないためだ。魚食の活性化を目的とした「SAKANA&JAPAN PROJECT」に取り組んでいる産経新聞社は、福島県の水産業の復興を応援する「福島のお魚を食べようプロジェクト」を立ち上げた。

福島沿岸の北部に位置する相馬市の松川浦漁港。6月14日午前8時すぎ、試験操業に出ていた底引き網漁船が次々に戻ってきた。ヒラメ、カレイ、アナゴ、タコ…。豊富なプランクトンを食べて育った「常磐もの」が水揚げされていく。

「身質と味の良さには自信がある」。相馬双葉漁業協同組合に所属する漁師、菊地基文さんは胸を張る。

操業日の4日前、菊地さんは東京・日本橋にいた。福島県産品を販売する「日本橋ふくしま館」で、相馬の魚介類を使った料理を提供しPRするためだ。地元でレストランを経営する森健太郎さんが考案し調理した「タコとトマトのラグーソースパスタ」を菊地さん自らが来店客に運ぶ。「おいしい」と声をかけられると、笑顔をみせた。

「ミズダコを粗びきにしてソースに使った魚介の味をしっかりと楽しめる一品」と森さん。菊地さんは「生産者自身が提供することで、食材の良さやおいしさがより伝わる。目の前の一人一人から食べてくれる人を増やしていきたい」と手応えを感じている。

同漁協では漁師やその妻らが地元の水産物を使った加工食品を開発する「浜の漁師飯・浜のかあちゃん飯推進プロジェクト」に取り組んでおり、菊地さんは底引き船チームのリーダーも務める。ナマコ、イナダ、カニミソ、ホッキ貝をそれぞれ使った4商品が完成。年内には商品化し発売する計画だ。菊地さんは「相馬には20代、30代の若い漁師が多い。その活気も感じてほしい」と力を込めた。

試験操業は、県による放射性物質のモニタリング検査で安全性が確認された魚種について小規模な操業と販売を行うもので、出漁は漁法ごとに週1~2日だ。

同漁協では、水揚げされたすべての魚種ごとに自主検査も実施し安全性の確保を図っている。現在、震災前に水揚げのあった約150魚種のうち出荷制限の対象となっているのは7魚種だけ。ただ、昨年の漁獲量(沿岸漁業)は震災前の14%、金額ベースで21%にとどまっている。

震災と原発事故で失った販路と販売が回復していないことが本格操業の再開を妨げ、水揚げが少なく安定供給できないことが販路と販売の回復を難しくしている。「常磐もの」の復活には風評を払拭し首都圏など消費地で一人でも多くの人に食べてもらうことが欠かせない。

(2018年11月21日)

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